
第387回 ライヴレポート編 シンディ・ローパー ―― 夢のような一夜……Girls Just Wanna Have Fun !!(前編)
4月22日、日本武道館で行われたシンディ・ローパーの最後のツアー、『Girls Just Wanna Have Fun FAREWELL TOUR』を観てきました! シンディの来日は6年ぶり、通算15回目のツアーになるという。俺が最後に観たのは2012年のツアーだから……、もう13年も前のことなのか。最近はスケジュールが合わずに観に行けていなかったけど、最後のツアーを見逃すわけにはいかないと、武道館に向かいました。

会場に入ると、客席は2階席の上のほう、天井近くの座席までぎっしりと埋まっており、立見席まで開放されたほどの盛況ぶり。今回のツアーはまず大阪、東京の2日間が発表されたものの、すぐに完売してしまったことから、追加公演(4月23日)、再追加公演(4月25日)と武道館での追加公演が2回も発表されている。最後のツアーだということもあってか、日本中からシンディのファンが集結しているんだろうね。こんなに大勢の人たちがシンディを待っているのに、本当に最後なんだろうか……。

定刻の19時を10分ほど過ぎたころ、BGMでかかっていたBLONDIEの『One Way Or Another』の音量がひと際大きくなり、客席が暗転。大歓声のなか、ステージバックの巨大なモニターにシンディのこれまでの映像がコラージュされた映像が流れる。LEDライトの点滅に目がチカチカしながら見ていると、紙吹雪の噴射とともに『She Bop』がスタートし、シンディがステージに登場! 今年の海外でのライヴ映像を観て感じていた声の不調は感じられず、カラフルでキュートな歌声の魅力は以前と変わらない。そして、音響がとてもクリアで、バンドのプレイも細かいフレーズまではっきりと聴こえる。座席の場所にもよるけど、これまでに何十回と観てきた武道館公演で、いちばん音が良かったかも……。
大盛り上がりで『She Bop』が終わり、「コンバンハー、トーキョー!」とさっそくMC。今回は女性の通訳が入り(この方の訳がいい!)、よりシンディの話すことが伝わってきた。「1986年に初めて日本に来て、みんなが『True Colors』を歌い返してくれたのが忘れられなくて。3.11に帰らなかったのもそれがあったからなの」と声を詰まらせながら話すシンディに、こちらの涙腺も早くも崩壊。しかしそのまましんみりすることはなく、「みんな歌って! 踊って!」と、懐かしい『The Goonies ‘R’ Good Enough』をプレイ。それまでバックに控えるようにしていたバンドメンバーもステージ前方に出てきて、客席を盛り上げる。近年のツアーに参加している女性ギタリスト、アレックス・ノーランがカッコいい!
ファーストアルバムから『When You Were Mine』とテンポのいい楽曲が続く。エンディングでシンディがステージから降り、次の曲が始まるまでに少し長めの間があって、ちょっと心配していると、白いドレス(コート?)に着替えたシンディがステージに登場。お色直しをしてたのね。そしてそのドレスをスクリーン代わりに車などの画像を映し、『I Drove All Night』がスタート。高音域がつらそうではあったものの、ここぞというところでは力強いハイトーンを聴かせてくれたし、これまで聴いたことのなかった細かいヴィブラートで低音を響かせるロングトーンも素晴らしい。若いころとまったく同じとはいかなくとも、今のシンディらしい(71歳!)アプローチで歌うようになっているんだろう。そして、それもまた魅力的だ。
続いてスクリーンに雨の映像が映され、『Who Let in the Rain』をプレイ。この曲は、オノ・ヨーコの著書『グレープフルーツ』の影響と、夫が自分の物語を書けばいいと背中を押してくれたことで生まれたという。男女二人のバックコーラスとの掛け合いが印象的だった。シンディのバンドなんだから当然だけど、バックメンバーは超一流の腕を持ったプロフェッショナルが揃っている。そして、そのメンバーたちがフィーチャーされた『Iko Iko』では「Hey now ! Hey Now !」と、客席と楽しく掛け合いを。メンバー紹介はあまり聞き取れなかったんだけど(ここは通訳なし)、ベーシストは『She’s so Unusual』で一緒に仕事をした、と話したように聞こえて、帰宅してから調べると同作でプロデューサーを務めたウィリアム・ウィットマンだったとわかりびっくり。どうりで音の存在感が凄かったわけだ。今回のメンバーはそのウィリアムと、ドラマー、コーラスの一人が男性で、ギター、キーボード、パーカッション、コーラスの一人が女性。こういったメンバー構成もシンディっぽいね。
続けてシンディが初めて聴いた女性のロックンロールシンガーの曲だった、と『Funnel of Love』をプレイ。あまり知られていない曲だけど、今回はこういった選曲しかり、MCの内容しかりで、シンディのルーツを一緒に辿っているかのような印象を受ける。また、音楽とアートを融合させたショウがやりたかったと話していたとおり、曲に合わせて様々な映像を流し、何度も衣装を着替えて、デザイナーのことも紹介。俺はその辺に疎いので、誰のことも知らなかったけど、シンディにしか着こなせないような個性的な衣装ばかりで、視覚的にもとても楽しめた。そして、シンディが黒いドレスに着替えると、これまでのカラフルな演出からガラッと変えたモノトーンの映像を背景に、幼馴染のサリーという女の子についての歌だという『Sally’s Pigeons』を、しっとりと歌った。
「キャリアの初めのころにやっていた曲をやろうと思うんだけど……、最初にその曲を有名にした男性のようにはとても歌えないと思っていたのね。でも、わたしのおばあちゃんやお母さんたちはとても裁縫が得意で、まるで最初からわたしのために作られたかのように古着をリメイクしてくれていたことを思い出して、洋服で出来るのなら、歌でも出来るかもと考えたの。そしてあのころの女性の境遇や自分自身のことを考えるたびに、ずっと頭の中に浮かぶ言葉があって……、普通の男性と同じように市民としての自由がほしい、って。だからこんなふうにこの曲を歌ったの」と、ソロデビュー前のバンド、BLUE ANGEL時代からのレパートリー『I’m Gonna be Strong』を力強く歌い上げた。
この曲は自分から去っていく女性に僕は平気だと強がってみせる曲だけど、シンディの話を聞いて、「I’m Gonna be Strong(わたしは強くなる)」と歌うシンディを見ていると、それは強がりではなく、過酷な時代や境遇を生き抜いてきたシンディのステートメントだと思った。そして、シンディの黒のドレスや、ドラマティックなバンドの演奏もあいまって、古い映画の中でストーリー仕立ての曲を歌うシャンソン歌手を観ているような、なんだか夢を見ているような気分になったよ。前半の個人的なハイライトはこの曲! 圧巻でした……!
※後編に続く(後編は5月13日に掲載予定です)
※ikkieのバンド、Antlionのシングルがリリースされました!
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