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勝手に植物図鑑

ミヤマモジズリ

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二日酔い花…

陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに
乱れそめにし われならなくに
河原左大臣(14番) 『古今集』恋四・724

■□■現代語訳
陸奥で織られる「しのぶもじずり」の摺り衣の模様のように、乱れる私の心。いったい誰のせいでしょう。私のせいではないのに(あなたのせいですよ)。

図鑑を繰って「ミヤマモジズリ」の花の名前を知った時なぜかこの歌を想起した。だが歌に詠まれた「もぢずり・もじずり」は「しのぶ草」であり、染料として用いられたシダ類の植物であるとされている。ミヤマモジズリとは似ても似つかない代物だ。

だが、花にはこの歌を想起させるに余りある風情がある。草丈わずか10センチほど、米粒ぐらいの小さな花だ。樹林下の少し薄暗いところで、なんだか静かに、けれどもこにこして咲いている。愛らしい!この花がその小さな胸に忍ぶ恋心を密かに抱いていても不思議はない。

「いいの日陰に咲く、ほんの小さな我が身でも、たとえ華やかに咲く大輪の花に人々の注目が集まろうとも、嘆かずに静かに笑っているから…」
ミヤマモジズリのつぶやきが聞こえそうではないかしら!

2018年8月13日、14日、小川山にクライミングに出かけた。近隣の山荘の類がどれも満杯で予約できなかったこともあり、1泊だけなのにもかかわらずテント泊にした。友人たちが前乗りで既に幕営していると知り再会も楽しみだった。
11時ごろ到着して天気の様子からして設営して、いつでも駆け込めるように、荷物を濡らさないようにしておいた方がいいだろうということになった。
案の定?テントを張り終えるころにはぱらぱらと来て、コーヒー一杯飲んでいたらザーザーに変わり、すぐにどしゃ降りになって、早速テントに潜り込む羽目になった。

ほどなく前乗り組もずぶ濡れで戻ってきて、そうなると着替えたりして一段落すると、早々「宴会」の運びとなる。翌日の天気予報から予定していたクライミング到底無理との結論に達していて気の緩みもあったし、第一ワイガヤガヤが楽しくて…

翌日は何を隠そう「二日酔い」!頭痛いやら、気持ち悪いやら、目え回るしで、マルチどころかシングルピッチにも手が出せず。終日皆が登っているのをボーっと眺めていた。
ふと気づいたら、そのお休み場所のそばにミヤマモジズリが咲いていた。花期真っ盛りであるらしく帰路にはたくさん見つけた。
二日酔いで使い物にならずとも、花には目が行き撮るときばかりは頭もしゃんとするんだな~これが…

花期は7月から9月

撮影年月日 2018/08/14
撮影場所 小川山廻目平
学名 ORCHIDACEAE Gymnadenia cucullata
科目・属 キジカクシ目ラン科テガタチドリ属
季節
生育地 温帯の樹林内
分布 北海道、本州(中部地方以北)、四国