1. HOME
  2. エンタメ
  3. シネマピア
  4. 【映画レビュー】満ち足りた家族
シネマピア
満ち足りた家族

【映画レビュー】満ち足りた家族

シネマピア

18

弁護士の兄と医者の弟。それぞれ美しい妻を持ち、何不自由ない満ち足りた生活を送っていたが、彼らの子どもたちにとある疑惑が浮上する……。米国の批評家サイト・ロッテントマトで驚異の100%を記録(2024.12.28時点)している本作は、2023年秋のトロント国際映画祭でワールドプレミアされたのち、2024年秋までの約1年間でおおよそ20もの映画祭に入選した話題作。人間に潜む究極の善悪を突きつける本作を、あなたは正視できるだろうか。

医療費の未払いなどものともせず、利益度外視でどんな時にも道徳的で良心的であることを信念に生きてきた小児科医(チャン・ドンゴン)。一方、その兄は道徳よりも利益重視で仕事をこなす弁護士(ソル・ギョング)。正反対の信念で生きてきた兄弟だが、それぞれの子どもたちに衝撃の事実が隠されていたことを知り……。

満ち足りた家族

本作は、ヘルマン・コッホの世界的ベストセラー小説『冷たい晩餐』が原作だ。この小説はすでに2013年にオランダ、2014年にイタリア、2017年にハリウッドで映画化されており、韓国版は本作で4作目となる。ある意味ハードルが高いこの原作に、ホ・ジノ監督が挑んだ本作。原作では兄弟の職業が次期首相有力候補の兄と元教師の弟という設定だったが、これを本作では弁護士と小児科医に変更。それぞれの職業が原作よりも「命の重さ」に肉薄した設定となったため、原作での問いをより重く、より逃げ場のないものに変え、観る者を追い詰めることに成功したと言えよう。

「他人事」ならば冷静かつ人として正しい判断ができるところを、事実が明らかになるにつれ、そしてそれが身内によってもたらされたものであると確信すればするほど、最初は善人であった者が徐々に悪人と化し、逆に悪人かと思われた者が善へと転じて行く。そこに明確な変化はなく、カエルが水から茹でられていつの間にか死にいたるように、夕焼けが夕暮れへと移り変わり、気づけば暗闇へとその姿を変えるように、なだらかなグラデーションによって善は悪に変わり、悪は善に変わる。「他人事」ではなく自らが「当事者」となった場合に、気配もなく忍び寄るその悪魔に、もっともらしい理論を語るその悪魔に、果たして気づくことができるのだろうか。

ラストの愚行を、非難するだけで終われるだろうか。あなたがもし、「当事者」となったならば。

原作:ヘルマン・コッホ『冷たい晩餐』
監督:ホ・ジノ(『八月のクリスマス』『危険な関係』)
脚本:パク・ウンギョ(『母なる証明』)、パク・ジュンソク
出演:ソル・ギョング(『ペパーミント・キャンディー』『キングメーカー 大統領を作った男』)、チャン・ドンゴン(『マイウェイ 12,000キロの真実』『V.I.P. 修羅の獣たち』)、キム・ヒエ(『ユンヒへ』)、クローディア・キム(『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』)
配給:日活/KDDI
公開:2025年1月17日(金) 全国ロードショー
公式サイトmichitaritakazoku.jp

© 2024 HIVE MEDIA CORP & MINDMARK ALL RIGHTS RESERVED

記:林田久美子  2024 / 12 / 28