
【映画レビュー】サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー
IT担当社員からタクシー運転手に転身した女性が出会う乗客たち。タクシーを日常的に使う上客らは、彼女の人生をも変えていく……。Variety誌が“傑作”と唸り、本作主演俳優が見事、ゴヤ賞の最優秀主演女優賞を受賞した快作。彼女の人生が変わって行ったその方向とは……。
スペイン、マドリード。高齢の父と暮らすルシアがITを担当していた勤務先の会社が、ある日突然に倒産の事態に見舞われる。生活のため、タクシー運転手に転身した彼女だったが、裕福で個性豊かな乗客たちとの出会いに心躍る毎日だったが……。












なんだこの快作は。あたかも心温まるかのようなあらすじから、誰がこの結末を予想しえただろうか。だがこの不穏な物語は、突如としてその方向を変えるのではない。小さな歯車が次から次へと噛みあい、次第にその方向性を変えながら、最後は大きな歯車へとたどり着き、取り返しのつかないあの結末へとなだれ込んでいく。彼女の無知があの出来事やあの出来事を招き、そして罪の意識からか、彼女は自らあの発言をしてしまう。そしてそのことが、彼女のタガを外してしまう。自らの運命を悟り、あの結末へと突き進んでしまう。
「職業に貴賎なし」。だが、この諺の戒めも虚しく、実際にはどの国にも貴賎はありありだ。大ありだ。だからこそこの諺が、言葉を変えながらもどの国にも存在する。これを実践することが尊く、そして難しいからだ。彼女が転身先に選んだ職業がタクシー運転手でなければ、あのような待遇をされずに済んだのかもしれない。そしてあの出来事もあの出来事も、起きなかったのかもしれない。
華やかな世界に足を踏み入れたはずだった彼女、人格者たちから尊重されていたとばかり思いこんでいた彼女。だが、一般人はあくまで一般人。ワンノブゼム。大勢の中の1人。上層の人間たちは下層の者どもから搾取し、搾取し、搾取しまくる。搾取すること自体が、まるで自分たちの使命であるかのように。当たり前かのように。
だから反撃が、始まってしまうのだ。


原作:フアン・ホセ・ミリャス
監督:アントニオ・メンデス・エスパルサ
脚本:アントニオ・メンデス・エスパルサ、クララ・ロケ
出演:マレーナ・アルテリオ、アイタナ・サンチェス=ヒホン、ロドリゴ・ポイソン、ホセ・ルイス・トリホ、マリオナ・リバス、マヌエル・デ・ブラス
配給:反射光
公開:10月31日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他 全国ロードショー!
公式サイト:something-happens.com
© UNA PRODUCCIÓN DE QUE NADIE DUERMA AIE – AVANPOST
記:林田久美子 2025 / 10 / 10