平山ユージ ―― 2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ―5―
小玉:ボルダー強い人がリードも強いだろうといわれていますね。後、ほまれちゃん(戸田萌希さん)の話しだとリードでは多くの選手が同じような高度でパンプしてくる。でもパンパンになってからが勝負で、そこから何手いけるかが勝負だと言ってました。そのあたりの持久戦の要素が違うけれど、ボルダーの強い人はリードも上手いですよと。
平山:でも、その概念を打ち破る人に出てきて欲しいですよね。大概のリードの子たちがそういう概念の中で生きているので、何とかできないのかなあ。いつもボルダーが全面に出て、リードの子たちが不満を感じているのかなって。そこをぶち破る選手が出てきて欲しいですね。
小玉:活躍する選手が違いますよね。リードだと これながさん(是永敬一郎さん、IFSCリードワールドカップ2016 第2戦ヴィラール2位)とか。
平山:きっと違うアプローチもあると思うんですね。そこを切り開く選手がいると、日本のクライミングは奥深いものになって、広がりも出てくるのではないかと。「くそ負けねーぞ」くらいの気持ちでいて欲しいですね。
チーム構築、選手サポート、競技運営…
課題山積を乗り越えて開く
オリンピックへの道のり
小玉:東京五輪に向けて選手は頑張るでしょうが、選手をサポートする体制について、例えば他のスポーツのチーム編成のように、選手がいて、トレーナーがいて、コーチがついて、監督がいてと、チームジャパンというチームの構築はこれからなんですかね?
平山:きっとバランスがあるんだと思います。でも、今日本にはそれが足りていませんね。しかし、なぜ今日本が強いかというと、コーチたちが画一したトレーニング方法を選手に押し付けていないからではないかという気がします。個で動いていて、個性を伸ばせていけている。個人は個人で自立していて、コーチが多少のオーバーラップをしながら、コーチングしていくというのが、求められている。選手もコーチに頼るのではなく自立していく。そこが日本の強みなんですね。
小玉:ベースキャンプでもアスリートマネージメントということを始められていますね。あまりたくさんの人数は難しいでしょうけど、選手にとってはありがたいことだと思います。競技をやりながら、いろんなことをアテンドしていくのは大変でしょう。ある種お任せでお願いできるというようなところにいたいはずです。そうするとこれから、将来的に見据えるとチーム構築の中にアスリートマネージメントも入ってくると思うんです。
つまりはそういうことに関わる方、選手もそうですけど、今までは、選手もついていく方も手弁当で「あんたが大好きだから行くわよ」的な感じでやってきましたが、これからは、何とかそれをサポートする経済を考えて企業などに協力を仰ぐという方向性を探っていかなければならない。例えばメディアも企業も、東京オリンピックに向けてメディアへの露出も増えてきて、クライミングの社会的認知も広がっていけば、そういうことも可能になってきます。アキヨちゃんなんかもそうですよね。TEAMauとかいろいろと出来てきて、世の中的には、既にそういう風になってきているかと思います。その時にアスリートマネージメントという概念が必要になりますね。
平山:そいう流れが大きくなってきていますね。
小玉:ユージさんの時代は、例えばフランスに行かれてた時は、経済は誰が支えていたんですか?
平山:自分でやってました。ある時「Power Bar」を食べて、大会に出たら優勝した。「これけっこう効くな」と実感しました。日本に帰ってきて輸入先を調べたら、ジャパンスポーツマーケティングの前身の会社のジャック・坂崎・マーケティングという会社で、そこにPower Barを入手するために行ったんです。何度か行っている間に、そこの人が「君やれるね」という話になって、僕のエージェントについてくれることになりました。そういう流れだった。
それまでは自分でやっていて、それが20代半ばですね。なに不自由なかったし、ちょうど今後どうしようかと考え始めた時期でしたから、こころ強かったです。基本ビジネス面では、こういった取材も自分でやっていましたし、なにかに頼る形は、お金の計算は面倒くさいので頼んでいました。そういう感じです。
マネージメントは人を潰す可能性もあります。この子にどういう風にしたいのか?ビジョンがあった方が良い。何もしないでも食べていけるんだという気持ちになってほしくない。世の中と繋がって世の中に生かされていて、だから世の中に、社会貢献とか何か貢献していることを喜びにしてほしい。
小玉:企業とコラボする事はリスクもありますね。総合的にどういう風な利用価値があるのかといった物差しがあまりにも強過ぎると、サポートされる側も大変になりますね。
平山:僕は基本的にクライミングの才能がある子たちに声をかけているわけですね。ただの芸能人みたいな感じになってほしくない。やっぱりクライミング界に生かされているわけで、クライミング界に何かを産み落としていってほしい。
僕はそういう気持ちでやっています。お金とは恐ろしいもので、人間をいくらでも変えてしまうので、気を使わないといけない。僕自身もワールドカップで総合優勝する中で、家族もいたし、自分を安定させるものがあった。マネージメント会社の人も現実的な話を常にしてくれて、ああいうリスクがある、こういうリスクがあるということを話してくれたので、道を外さずに来れました。
日本代表の選手運営は大変になって来ますよね。いろんな企業も絡んでくるでしょう。選手の個人的なスポンサーもあるし、対日本代表もあるでしょう。選手本人は、日本代表ということは、日本の代表として見られる。あの子たちの振る舞いをみんなが目を凝らして見ているわけで。そこで、どういう振る舞いをするかで、その人の評価、価値が変わってきます。
小玉:日本のクライミング界がどんどん隆盛していくには、裾野を広げる、社会の認知というのもすごく重要なファクターになっていくのではないかと思います。そういう意味ではメディアの果たす役割は大きいでしょうね。今のところはスカイAとか、ストリームとかは放映していますが、テレビでは、スペシャル番組で話題として取り上げてはいますが、実際にリアルタイム、オンタイムで試合を中継することは、まだありませんね。けれど、2020年に向けて、だんだんそういうこともなっていくのかと期待はします。
平山:僕は裾野が広がる事も重要ですけど、本物であってほしい。だから、裾野を広げる事を急ぐよりは、本物である人を出していく、本物を伝えていくメディアであってほしいと思います。でも興味本位で、一瞬ワァーっと取り上げられるのではなく、ウチでやってるマネージメントの選手たちは、そういった形で露出していってほしいですね。
小玉:私は単純なので、例えばお茶の間のおばあちゃんが「まおちゃんが出る」って楽しみにテレビつけるのと同じノリで「みほちゃんが出る」って試合を見るという状況になればいいと思ってしまいます。
平山:そういう要素もありつつ、本物であるってことですけど、人の幸せ度合いというのは、些細なものであると思うので、そういう喜びを伝える部分は僕も否定しないです。
小玉:そのために徐々に出て行くとすれば、クライミングをやったことがない人がオーディエンスのほとんどという状況の中で、そういう人にとっては、壁に張り付いて「何を、なんかもじもじしているのか」わからない。だから、アキヨちゃんとみほちゃん、こころさんとともあくんの登りの違いがわからないとかというふうなことも含めて、どういうグレーディングで何が難しいのかということを、知らない人の身になって解説することが大事ではないかと思います。
平山:時間が必要だと思います。例えば、野球とかだと、あんだけ複雑なルールをほとんどの人が理解して観るわけですよね。クライミングも分かる人が増えてくればという期待値もあります。もちろん、とはいっても胡座をかくわけではなく、如何にクライミングをまだ知らない人にわかり易く伝えようとする姿勢も必要でしょう。その両方で理解度深まり、クライミングが周知されていけばいいのではないかと思います。
特にリードとの解説は難しいと思います。ボルダーに関しては、観てるだけで興奮するじゃないですか?!けれど、リードはアクションが少ない分、如何にエキサイティングに伝えられるかかが課題でしょう。ルートの内容もありますね。起承転結がないと。伝えるのは難しいし、観ているのも退屈だし。どこで拍手して良いか分からなかったりもするでしょう。誰が結局1位なのか、4課題が終わるまで分からない、その辺の複雑さをどう伝えるのか気になるところです。
後は、スピードに関してはどうなって行くのんだろうと模様眺めしているところです。