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シネマピア
【映画レビュー】ペンギン・レッスン

【映画レビュー】ペンギン・レッスン

シネマピア

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たった一羽の物言わぬペンギンが、何人もの人間の人生を変えた……! アカデミー賞監督賞ノミネート、『フル・モンティ』のピーター・カッタネオが監督を、『あなたを抱きしめる日まで』「ナイト ミュージアム」シリーズ、『怪盗グルーのミニオン危機一発』の声優でも知られる実力派俳優スティーヴ・クーガンが主演を務めた本作。昨年2024年、トロント国際映画祭での初上映を皮切りに世界中の映画祭で絶賛された本作は、原作「人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日」(ハーパーコリンズ・ジャパン刊)も世界22カ国で刊行され、日本でも11月27日(木)発売で待望の再販が決定。実話だからこその静かな、そして深い感動が我々の心を癒していく……。

1976年、軍事政権下でクーデターが日常的に行われているアルゼンチン。国の状況から半ば人生を諦め、事なかれ主義に徹していた英語教師トム(スティーヴ・クーガン)は、首都ブエノスアイレスで名門の寄宿学校に赴任する。杓子定規な校長による授業への“非政治的”干渉や、思春期特有とはいえやんちゃで不真面目な生徒たちに疲れ果てたトムは、気晴らしにと訪れた隣国ウルグアイの海岸でペンギンを見つけたのだが……。

ペンギン・レッスン
ペンギン・レッスン
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直近でも、JRの交通系ICカードSuicaで25年もの間マスコットキャラクターを務めたペンギンが2026年度末での卒業を言い渡されたというニュースに界隈から悲鳴が上がったり、SNSでもペンギンをアイコンにしている人をちょくちょく見かけたりするなど、実は根強い人気を誇るペンギン。とあるペンギン好きの方にペンギンのどこが好きなのかを訊いたことがあるのだが、その方曰く「何も考えていないから」と答えが返ってきたことがある。確かに、ワンちゃんやニャンちゃんと違って表情は見えにくいから、人間側からの感情移入もしやすいのかもしれない。また、南極に棲息する野生のペンギンは人間から逃げたり恐れたりせず、人懐っこく人間に着いて回る。その性格もまた、見ていて本当に愛らしい。とは言えペンギンは犬や猫と違ってお手軽に飼えるわけではないからこそ、だからこその尊さもまた魅力のひとつなのだろう。

さて、そのペンギンが、本作では実話のこの物語の流れを司る。普段は実物であっても動物園で遠くから見るくらいのそのペンギンが、本作では犬や猫のように人間に持ち上げられ、抱っこされ、人間の話し相手となっている。さながら“ペンギン・セラピー”のようだ。仮にトムが海岸で見つけたのがペンギンでなく犬や猫などの違う動物だったら、物語はこんなふうに進んだだろうか。ペンギンだったからこそ、人の心が自然と動き、そして彼らの人生が変わっていったのではないだろうか。

撮影の大半では、ババとリチャードという2羽の本物のペンギンが使われた。一部のシーンでは人形やロボットのペンギンも使われたのだが、大半は本物のペンギンによる撮影とのこと。撮影期間中、主演のクーガンはこの2羽と密接に行動を共にし、話しかけ、抱きかかえながら親しみを深めていったという。
ペンギンたちは撮影現場の空気を和ませ、クーガンに“人生をあまり深刻に考えすぎないこと”を思い出させてくれたという。クーガンは語る。「人間は往々にして内向きになり、些細なことに囚われすぎるものですが、この鳥たちは“すべてを真剣に受け止めすぎないこと”を教えてくれます」と。
ペンギンとの“共演”という経験を経た彼はこのようにも語る。「無理にコントロールしようとせず、受け入れること——それが最高の瞬間を生むこともあるのです」

片方の力が強かったり能力が高かったりすることにより上下関係などの権力構造が生まれがちな人間社会。言葉という伝達手段を持つが故に、些細な行き違いから思い違いをも誘発し、大きな問題へと発展してしまうこともある人間社会。ペンギンもああ見えて、実はペンギン社会ではいろいろと問題が生じているのかもしれない。だが暫し、物言わぬペンギンに、心根の優しそうなその無垢な存在に、自分の人生を打ち明けてしまいたくなる時がある。たとえ“答え”が返ってこなくとも。
そんな時、本作はあなたの心に、静かにそっと寄り添ってくれることだろう。

原作:トム・ミシェル「人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日」 https://amzn.asia/d/65Hg6H
監督:ピーター・カッタネオ
脚本:ジェフ・ポープ
出演:スティーヴ・クーガン、ヴィヴィアン・エル・ジャバー、ビョルン・グスタフソン、アルフォンシーナ・カロッチオ、デイヴィッド・エレロ、ジョナサン・プライス
配給:ロングライド
公開:12月5日(金)より、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
公式サイトhttps://longride.jp/lineup/penguin/

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記:林田久美子  2025 / 11 / 10