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第406回 特別編 ―― Sさんのこと

先日、普段はLINEでしかやり取りをしないTAI-ONの相方からめずらしく電話がかかってきてね。何かあったのかと、なんとなく胸騒ぎがしつつ電話に出ると、共通の知人が亡くなったという噂を聞いた、と。かなり前……もう30年近く前になるのかな。古本屋で一緒に働いていたSさん。相方によると、お酒を飲んだ後に長良川の河川敷で眠ってそのまま亡くなってしまったらしい……って、マジか。でも、Sさんはかなりの酒飲みだったから、二人して、あの人ならあるかもしれん、と思ってしまった。しかし、信じられないし、信じたくないしで、ドキドキしながら電話してみたら、現在使われておりませんというアナウンスが流れてきた。最後に電話で話してから20年くらい経つし、電話番号が変わっていた可能性が高そうだけど、何事もなかったのかのように懐かしい声が聞こえてくるんじゃないか、なんて期待していたのに。それからあちこちに確認すると、お別れ会に出たという人がいたりもして、亡くなったのは間違いないみたい……。

今回の音楽総研はイレギュラー中のイレギュラーで、Sさんのことを。Sさんはすごく音楽が好きな人でね。ミュージシャンでもなければ有名人でもないけど、Sさんが好きだったアーティストのことなんかについてあれこれと書いてみます。たまにはこういうのも、ね。しばしお付き合いください。

Sさんとは30年近く前に古本屋のバイトで知り合いました。俺のほうが何ヶ月か先に入っていて、仕事を教えたりなんかもしたものだから、年上だろうとは思いつつ、最初はSくんて呼んでいたんだけど、7歳上だったことを知ってさすがに「くん」じゃないなと慌ててSさんと呼ぶようになったというね。ちなみに、Sさんは最初からずっと俺のことはさんづけで呼んで、敬語まじりでした。お互いに長髪で音楽好き、しかも家が近所だったこともあって、すぐに仲良くなって、一時期はバイト帰りに毎晩飲んでいたんだよね。これ、誇張なしに毎晩です。いつも二人だけで飲んでいたわけじゃなかったけど、同僚の女の子に「“べったり”ってイメージ」って言われたくらいだったもの(苦笑)。

あのころ、まだ20代半ばだった俺は、お酒は好きだったものの、それほど強いわけでもなく、ビールだったりカクテルだったりをよく飲んでいたんだけど、Sさんはワイン好きで、付き合って飲んでいるうちに、それまでワインがちょっと苦手だった俺もワイン党になったんだよなあ。今は焼酎ばっかりだけど。料理が得意で、家に行くと、冷蔵庫にあるものでちゃちゃっとおいしいごはんを作ってくれるのがカッコ良くてねえ。俺が料理好きになったのは、あの人の影響もあったんじゃないかな。だいぶ年上ではあったけど、偉そうなところはひとつもなく、若かった俺の相談なんかに乗ったりしてくれて、すごく優しい人だった。怒ってるとこなんて一回も見たことない。バイトをサボった俺に呆れていたことはあったけども。

俺らが働いていた古本屋は店内のBGMがアニソンか特撮系に決まっていて、その範疇であれば自分が好きなCDをかけてよかったんだけど、Sさんがよくかけていたのが『天空のエスカフローネ』というアニメのサントラ。Sさんと飲んでいるときに、このサントラがいかに素晴らしいかと語っていたのをよく覚えています。Sさんはミュージシャンではなかったけど、大学時代に「てつ100%」というバンドの手伝いをしていたのか、メンバーと友人だったのか……細かいことは忘れたけど、そのバンドのメンバーたちと知り合いだったらしいんだよね。で、ある日、「エスカフローネの曲を書いている菅野よう子がよう子さんだった」って。俺は「そりゃ菅野よう子はよう子さんでしょうよ」と思っていたら、菅野よう子さんは、てつ100%の元メンバーだった人らしく、知らずに気に入って聴いていたサントラが、なんと昔の知人の作品だったことに気付いて、「あのよう子さんだ!」と興奮していたみたい。ごめんね、あのとき一緒に驚いてあげなくて。それはびっくりするわ。

坂本真綾 『約束はいらない』
天空のエスカフローネのオープニングテーマ。懐かしい。何十年ぶりに聴いただろう。泣きそうです

他にも『るろうに剣心』のエンディングテーマだったBONNIE PINKもお気に入りだったなあ。ニューウェイヴ好きだったSさんにはストライクだったんだろう。『It’s gonna rain!』という曲で、「チャオ、チャーオって繰り返すところがすごくニューウェイヴだ」なんて、事あるごとに話していたっけ。それがどうしてニューウェイヴなのか俺にはよくわからなかったけど(笑)、BONNIE PINKは俺も好きでした。Sさんに「いちばん好きなアーティストって誰?」って聞いたら、「細野(晴臣)さんかなあ」なんて話していたんだけど、ひねくれたポップセンスのある人が好きだったのかな。BONNIE PINKもそういうアーティストだよね。あ、プロデュースはトーレ・ヨハンソンだったのか。なるほど。

BONNIE PINK 『It’s gonna rain!』
チャオ、チャーオと繰り返すのがニューウェイヴっぽいらしい。いい曲!

そうだ、ひねくれたポップセンスといえば、XTCも好きだった。SさんがCDを貸してくれて、俺もどハマりしたんだよね。あまりに気に入り過ぎてずっと聴いていたら、俺が異動になってSさんと会う機会が減って借りパク状態になり……、さすがにそろそろ返さなきゃと連絡したら、「また買ったからそのCDはあげる」と。ごめん(笑)。Sさんは音楽に詳しくて、いろんなジャンルのアーティストを聴いていたけど、ライヴに行くことにはさほど興味がなかったらしく、何度誘っても俺のバンドのライヴには来てくれなくてね。まあ、俺のバンドはハードロックをやっていて、Sさんの好みではなかったからかもしれないけど、それでも「XTCやるなら観に行く」と。結局そんな機会はなく、Sさんは俺のライヴを観たことがない。今度ライヴでXTCやったら、ひょっこり観に来ないかな。

XTC 『The Ballad of Peter Pumpkinhead』
XTC大好き! この曲が収録されたアルバム(結果的に借りパク)、ほんとによく聴きました

今になってあれこれと思い出すと、歳の差がかなりあって、好きな音楽もそれほどかぶらないし、好きな本だって違ったのに、なんであんなに仲が良かったんだろう。あれから30年ほど経った今、毎晩一緒に飲む人なんていないし、毎晩一緒に飲みたい人もいない。まだまだ若かったあのころの俺は、Sさんの影響をたくさん受けていたような気がする。……そう、俺にお酒の飲み方を教えてくれたのはあなたじゃないか。

早すぎるよ、斎藤さん。

何やってんだ。

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