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生野正――銀座発「日本刀は文化であり芸術品なのです」

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「日本刀」さてみなさんどんなイメージがあるだろう?
時代劇でバッサバッサと敵を斬る……きっとそんな感じ、ですよね。
ところが。「そういった“武器”ではない!」という声が銀座から聞こえてきました。日本刀が持つ魅力、そして文化とはいったい……?
本物の“刀屋さん”が語ります。さあ読んでくれ!

プロフィール


生野 正(しょうの ただし)
刀剣・武具を扱う「誠友堂」代表取締役
テレビや映画などから影響を受け、幼少期から刀剣に深い興味を抱く。会社員生活の傍ら日本刀の収集を続け、やがては日本刀を中心に刀剣・武具を扱う「誠友堂」の開店に至る。現在は銀座に店舗を構えている。

誠友堂HP:https://www.seiyudo.com

――今回は日本刀や火縄銃、武具などを扱う『誠友堂』の代表取締役、生野正さんにご登場いただきます。こんにちは。
生野:こんにちは。よろしくお願いいたします。
――誠友堂さんが店舗を構える銀座のショッピングビル、銀座ファイブにお邪魔してのお話しです。飾られている日本刀など店頭からも見ることができますが、先ほどからカップルなどが興味深そうに見ていますよ。
生野:そうですか(ニッコリ)。若い人が注目してくれるのはいいことですね。

――それにしましても、日本刀などテレビで目にすることはありますが、実際に扱っているお店に来るのは初めてです。
生野:刀屋さんはあまり多くはないですからね。日本で何軒、という感じですよ。
――誠友堂さんがオープンされたのはどれくらい前なのですか。
生野:このお店はオープンして……何年になりますかね? 本社機能が東京の板橋にあって、かつてはそちらで扱っていたのですけれどね。板橋のほうはいま写真を撮ったり、事務のほうで使っています。

――そもそものお話しですが、なぜこのようなご商売を始められたのでしょうか。
生野:はい。私はもともとは“紙関係”……まあ違う仕事をしていたのですが、若いときからこの仕事をやってみたかったのですよ。昔から刀は好きでしたしね。まあ好きが講じて本業になっちゃったんですよね(笑)。

――でもやはり好きじゃなければ出来ないお仕事だとは、この刀の数々を見れば感じますね。そんな生野さんの刀との出会いを教えてください。
生野:出会い、ですか……。まず小さなころから刀とか鉄砲が好きだったのですよね。小さいときに男の子なら出会いますでしょ?
――チャンバラごっことか銀玉鉄砲とかですね。
生野:そうそう。私たちの小さなころってゴールデンタイムに時代劇とか必ずやってましたよね。それで夜の9時になれば映画の時間になってそこでは西部劇や戦争映画、と。それに憧れるというのは男の子ならみんなが一度は通る道ですよ。それで刀を握って、銀玉鉄砲を撃って……って子供のころをみんな過ごすのですけれど、私の場合はそこから成長がなくて(笑)大人になってもそれらが好きだったんです。それでまずはホンモノを持とうと思いました。

――いまもお店に並んでいる刀を拝見いたしましたが、やっぱりお高いものですよね……。
生野:そうですね。ですから社会人になってからちょっとずつ貯金をしまして買いました。こればっかりは親に「欲しいから」ってお願いするわけにもいかないですしね(笑)。
――「日本刀を買ってほしい」と親に言うのはなかなかハードルが高いですよね(笑)。それでお買い求めになった刀は……。
生野:若い私には高かったですね。そしてそこからまた別の刀を……となっていったわけですね。

――素晴らしい。ただ趣味として刀の収集をされている方は他にもたくさんおりますが、お店をやろうというのはなかなか勇気がいりますよね。それこそ“お店がやれるほど”なんて例えくらいに品数がなければいけないのでしょうし。
生野:そうなのですが、たとえば最初は店舗や業者の“交換会”などで刀の種類を増やしたり、委託販売などを多く扱ったりしまして今に至っておりますね。親の代からであるとか、古いところでは江戸時代からやっているようなお店もあるんですよ。新しい感覚で特色のあるお店にしていければいいなあとは常に思っていますよ。

「サラリーマンが買える刀屋さん」

――いいですね、「新しい感覚」。
生野:刀屋さんといいますとね、近づきがたくやはり敷居が高い、店に入り難いものがあるのですよ。私も最初に買ったときはそうでしたし、刀を見るのも緊張していました。それってとても大事なことではあるのですけれども、近寄り難いばかりだと裾野が広がっていかないですよね。

――普通には触れられないものだという認識になってしまいそうです。
生野:そうなんです。先も申し上げましたが、ゴールデンタイムに刀が登場する時代でもない今である以上、刀自体の文化が日本から衰退していきかねません。現に最近は外国のお客さんが増えてきているのですよ。日本刀に興味を持って訪ねてきたり、買って帰られる外国人の方々、増えてきておられます。

――現役メジャーリーガーもいらしたそうですしね。
生野:ははは、そうですね。刀を飾っている博物館などに行っても相当数が外国の方だったりもしますよ。翻って日本人はどうかというと……年配の方はともかく、若い人にはあまり浸透していませんよね。そうすると文化として廃れてしまいますし、外国に文化財がどんどん流失していくことも考えられます。それではいけないですよね。
――そうですね。
生野:なのでウチは……あの、“名前”のある刀って、やっぱり高いのですよ。

――テレビでの知識でしかないですが『正宗』とかそういった“名前”、ですね。
生野:はい。そういったものはとても高いのですが、私が目指したのはそれらではなく「サラリーマンが買える刀店」なんです。それは2万円や3万円ではなかなか買えないですが、10万円、20万円……お給料から少し貯金をすれば買えるのではないか、という刀を扱うお店なんです。高価ではない、あまり名前の知られていない刀匠さんが作った刀にも名品はあるんですよ。丹念に造ったものは人の心を打つところはあるのです。
――はい。
生野:有名な刀工が造ったものというのは材料もいいですし、技術もいいです。たしかに一級品なのですが、なかには不出来なものもあります。ただ、そういった不出来なものでも値段が付いてしまうのですね。

――言ってしまえば“名前だけ”で高価な値段が付いてしまうものもある、と。
生野:私はそういうものではない、名前が知られていない人のものでも心を打つものがある、それを伝えていきたいと思っているのですね。
――なるほど……ここまでのお話しだけでも刀に対する印象が少し変わりました。
生野:これまでどう思われていました?
――いや、やはり人を斬るものだと……。
生野:そうですよね。お店に来ていただいた方でも「これで首を斬ったんだね……」とよくおっしゃっているのを耳にします。たしかにそういった時代もあったかも知れませんが、刀というのは江戸時代やそれ以前からの文化、文化財なんですよ。
――はい。
生野:いま残っている刀でも人を斬ったものもそれはあるかもしれません。ただ現存しているいい刀というのは武家に長く伝えられて、大切にされて来た刀なんです。そういったものでなければ、(飾られている刀を示して)こうして綺麗に残っていません。それこそ数百年前に作られた刀が、現代で作られた刀とそんなに変わらない形で残っているわけですからね。それは大切にされてきた証拠です。

――なるほど。まさに文化財であり、芸術品、美術品なんですね。
生野:そうです。刀の拵え(こしらえ)、外装に付いている鍔などの部品に至るまで丹念に作られています。日本人の文化の結晶ですよ。全世界で武器とされるもの、たとえば剣とされるもので、日本刀ほど価値があるというか、芸術性を持ったものはありませんよ。日本で国宝に指定されているジャンルでいちばん多いのも……

――それは当然……。
生野:刀剣なんです(ニッコリ)。それだけ重要な日本の文化なんですよ。それはやはり若い人に目を向けてもらわないといけませんよね。どうせ売るのだったら日本の人たちにしたいですもん。そのように盛り上げていくのは自分たちの責任でもありますよね。
――先ほどのカップルではありませんが、こちらのお店は目にも付きやすいですから、もっと刀を身近に感じてほしいですよね。
生野:そうなんですけどね……敷居の高い低いだと、ウチの場合は低くし過ぎて入りやす過ぎちゃっているのか、お店の奥にいても「これで首を……」っていっぱい聞こえてきちゃって(笑)。そうではないんですよ、ってお話しするのも大変になってきましたよ、ははは。