平山ユージ ―― 2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ―5―
技術革新を得てクライミング自体も進化した国内外の選手が育ち、機が熟してクライミングは次の時代を迎えようとしている!
小玉:追加オリンピック種目はいったん、10種取り上げられて、その中から絞って…。
平山:5種目です。
小玉:その過程において、何かプレゼンテーションはされましたか?
平山:僕はたいした仕事はしてないですね。それぞれの重鎮たちと一緒に並んで、僕は「クライミング界で活躍している人間で今、ビジネスでも成功している」という立ち位置だったではないかと感じています。そこでひとこと話すくらいです。だから、「長い間、真剣に携わり今も深くクライミング界に関わっている人間がここにいる」ということそのことが、アピールだったような気がしています。でも、貴重な時間でしたね。「こうやってオリンピックって決まっていくのか」と感心しました。国会ではないですけど、いろんなルールがあって、様々が決まっていくのかと。
小玉:リアルな世界とプラス政治の世界と…
平山:そういうことになるのでしょうかね?クライミングをそこまで知らない方がクライミングの運命を決めているようにも感じました。僕はクライミングを知っている人間として精一杯声を上げました。戦争の話もそうですけど、戦争に行く人が決めるのではなくて、テーブルの上で決まっていて、行かされるのは、何も知らない若い人たち。そういったところでしっかり判断できる人がクライミング界を引っ張ってくれれば、世の中にとってもよいことなのだろうと思いました。
小玉:最初の10種から5種に絞り込むのは、国内で?
平山:詳しくはわかりませんが、IOCと東京都の組織委員会とで話しをして決めたと思います。
小玉:おそらく近年の日本のクライミング選手の動向が右肩上がり的に強くなってきていて、世界各国においても、クライミングの注目度が目覚ましくなっているということも大きく作用したのではないかと思いますね。
平山:その競技がオリンピックの競技種目になって経済的に成り立つのかという問題と後は、日本がその種目に熱狂できるか?ということが重要になる。それはその種目について強いか弱いかに大きく関わってくること思います。
今回、重要視されていたのは、時代、時流に歓迎されて受け入れられているかという点でした。若い人が興味を持って参加している、人気があるという点で、スケートボードとかローラースポーツ、サーフィンなどと同じ流れの中に、そのひとつとして捉えられたのでしょう。時流に乗っていますね。
これまでのクライミングというものを意識していかなければならない。でもオリンピックも大事。
小玉:山岳ガイドさんがよく言われているのは、10年前は登山靴で北岳バットレスも穂高の屏風も登ってた。現在のようなラバーソウルシューズができて、トライ感が格段に変わったと。
平山:そういうものなのでしょうね。世の中って。昔は地球は平らだった。ガリレオが初めて地球は丸いということを発見した。まさに世の中は平らで正しいと思っていたこと全てを否定することによって、新しい世界が生まれた。
僕がクライミングを始めた時は、人工登攀で登ることが主流だった。それクライミングじゃないだろって生意気やってたんですけど、でも今、30年経って今の時代になればそれがが当たり前。革命的なものは常に前衛的なんです。
小玉:夏にミディ南壁を登って来たんですけど、ガストン・レビュファさんが初登で、60年前のその時代には、カムがなかったから、クザビを打ち込んで、小さいアブミで登っていた。そのクサビがいくつか残っていました。
平山:今回は、たまたまクライミングの人気とオリンピック誘致が東京になったという地の利が重なってクライミングが初めてオリンピックの正式種目になりました。そういう「たまたま」に恵まれなかったら、例えばもしカムがなかったらクライミングはどういう風に発展していくのかな?鉄工所とかに勤めてたら作れるのかなって。まさにカシンとかは、鉄工所とかに勤めていたので、自分でギアを作った。クライミングをしたい気持ちと鉄工所に勤めてたことがマッチして、一流クライマーになっていった。そういう時代のマッチングとか時流に乗るとか、いろいろなことが重なって、新しいヒーローや物が生まれるんだなと実感しました。
3種複合という厳しい条件
選手たちの総合力を養う好機とポジティブにとらえる
あくまでも、その先の理想形を見据えて!!
小玉:色々な物が合わさって、最後にガラガラポンで答えが出た。
後、オリンピックのクライミングはリード、ボルダリング、スピードのは3種総合の評価で競われるということですが、そういうことは、どこで決定されたのですか?
平山:答え辛いところもあるんですけど、クライマー的ではないところで決まっていったと思われます。
小玉:予算の問題ですか?
平山:いえいえ。スピードクライミングを一生懸命やっている人もいますし。追加種目5種で動員数500人という枠があって、野球とソフトと空手などを除くと、残りが100人くらいになります。その100人枠にどう競技を組み立てるかは難問だったと思います。後は、各種目にフェアでありたいから、日本としてはボルダーとリードで勝負というところがあるんでしょうね。そこによって、スピードクライミングによる反発が起こっているのかな?
総体的にはまずは、オリンピック種目に決定されることが最優先で、その中でさらに発展していく方法を見いだそうとした、というところだと思います。ビジョンはすでにあると思います。その中で、今回は東京で3種目複合のボルダリングを盛り上げるぞということで動いている。
小玉:3種目総合になったという、選手たちの反応みたいなものは?
平山:揺れている部分もあれば、さまざま。選手は、旬という捉えどころがあって、活躍している時、今トップにいる選手たちは、3種目複合に対して複雑な気持ちでいると思います。アキヨちゃん(野口哲代さん)とかは、「新しいチャレンジかもしれないけど、頑張ろう」と思っていると思うし、みほちゃん(野中生萌さん)は、クライミング歴からいって、「ボンっ」と考え方をシフトできると思うし、トモアくん(楢崎智亜さん)もそうですよね。
逆に安間(安間佐千さん)くんとかは、これは自分の世界ではないと見極めて、競技会から退いていった気はしますね。今大活躍している世代は揺れ動いた半年、1年だと思いますね。