
【映画レビュー】逆火

実話をもとに製作が開始された映画……だがその実話が嘘だったとしたら? 綺麗ごとの仮面をかぶった現代社会の、すべての局面に潜む病巣が暴かれる!! 『ミッドナイトスワン』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した内田英治監督が、『ヤクザと家族 The Family』の北村有起哉を主役に据えて挑んだヒューマンサスペンス。
助監督として監督(岩崎う大)の補佐を務める野島(北村有起哉)。彼が目下手がけているのは、貧困のヤングケアラーという過去を持ちながらも事業で成功を収めたARISA(円井わん)の自伝小説の映画化だったが、物語の背景を探るうちに、様々な疑惑にぶち当たる……。


所謂、華々しい見た目のスターや大スターといった俳優は出演しておらず、実力派俳優だけでキャスティングされた本作。この手の作品は、自分の好みにハマれば面白いが、ハマらなければただただ勉強のために観た、という感想だけが残りがちの傾向にある。
さあ、本作はどうだ……正直、さほど期待せずに見始めたのだが、私の浅薄な期待は見事に外れた。何これ。凄いじゃん。人間として生きていくにあたり、誰もが一度ならず三度も四度も十度も遭遇する理不尽な扱い。それらを映画製作の現場からの視点で盛り込み、これでもかこれでもかとありとあらゆる理不尽を、それも、さも美しそうな綺麗ごとでコーテイングされた現代社会の闇を、まるで泥団子のように黒々と輝かせ、巧妙なセリフとともにいくつもいくつもぶち込んでくる。ラストなんか何の救いもない。とことんまで現実を突きつけてくる。
多くの人々の人生がそうであるように、人生というものはよくある感動的な映画のように上手く物事が進むわけではない。往々にして、自分の願いや思惑とは反して、濁流のように有無を言わさず抵抗もできずに意図しない方向へ流され続ける事態など、いくらでもある。
本作は、そうした“よくある理不尽”のパターンの見本市だ。よくもまあこれだけの残念な事柄を思いつくものだと感心さえする。参った。何これ。面白すぎるじゃん。これ何、映画の鑑?
是非とも、きらびやかなルックスの俳優たちがさほど出ていなくとも(失礼)、本作が映画ファンの皆さまに認知され、評価され、願わくはカメ止めのように大ヒットの道を辿りますように。そう願わずにはいられないほどの秀逸な怪作なのだ。
本作タイトル『逆火』の読みは“さかび”ではなく“ぎゃっか”。炎の逆流を指す言葉だ。是非、劇場でご覧いただきたい。














原案・監督:内田英治
脚本:まなべゆきこ
出演:北村有起哉、円井わん、岩崎う大(かもめんたる)、大山真絵子、中心愛、片岡礼子、岡谷瞳、辻凪子、小松遼太、金野美穂、島田桃依
配給:KADOKAWA
公開:7月11日(金)テアトル新宿ほか全国順次公開
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/gyakka/
© 2025「逆火」製作委員会
記:林田久美子 2025 / 05 / 10