渡部桂太 ―― 2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ―8―
小玉:インドアの練習は、毎日ですか?
渡部:毎日はしないです。よくて4、5回くらい。
小玉:練習時間は?
渡部:5、6時間くらいですね。結構、いつの間にか時間が経ってしまいますね。
小玉:いわゆる登ることによって、鍛えるという以外にトレーニングは?
渡部:今だと、スポンサーでもある森永製菓主催のトレーニングラボというのがあるんですけれど、そこには、幅広くさまざまなアスリートの方がいらっしゃる。オリンピックで金メダルを獲った人も。その中でトレーニングをしています。
小玉:筋肉トレーニングとか体幹トレーニングとかですか?
渡部:内容はあんまり固定していません。
*森永製菓株式会社は異なるカテゴリーのトップアスリートをサポートしている。主催のトレーニングラボでは各分野のスペシャリストが解剖学・生理学・バイオメカニクス・栄養学・心理学などを駆使して、最高のパフォーマンスを導きだす情報・方法・技術を提供し、フィジカル面をサポートしている。https://www.morinaga.co.jp/in/support/labo/
小玉:トレーニングラボで、トレーナーがいらっしゃるわけですね?
渡部:そうです。各競技に担当している方がいて、その方と栄養士の方と相談します。でも、頼りきったりしても、クライミングはクライミングしないと上手くならない。
小玉:どのような栄養指導や食に対する指導なんですか?
渡部:栄養サポートというのは、試合中とか試合前にどういうものを摂取した方がいいかとか…
小玉:週4で5時間くらい登って、終わった30分以内のゴールデンタイムにタンパク質をとるとか、そういことですか?
渡部:そういうレベルです。朝食はこれくらいを摂ってとか。
小玉:みんな細いですよね。
渡部:脂肪が多くて登れるわけないですからね。今のクライミングの風潮として必要な動きが、軽量体型の方が有利なんだと。でも、一時期よりみんな体重が重いです。
どんな時もあがったりしない
気温や気象、自然の中で岩はなんともならない
冷静沈着、待つ忍耐力は岩から学んだ
小玉:週4通われるジムはどちらですか?
渡部:通うといっても一ヶ所じゃないです。
小玉:その時は、ボルダーもリードも一緒にやられるんですか?
渡部:僕は、9割9分ボルダーです。筋トレやるのもボルダーのジムです。リードのジムは混み過ぎて嫌です。自分のタイミングで登れないから。練習的には向いていないと感じます。
小玉:時間帯もありますよね。
渡部:そうですね。午前中は少しすいています。
小玉:ルートの設定だと難易度が高いのががあった方がいいでしょ?
渡部:どうなんですかね。めちゃくちゃ難しいのはなくてもいいと思います。
小玉:トレーニングといえば、メンタルトレーニングは考えてますか?
渡部:したことないです。
小玉:あがったりしませんか?
渡部:人生でほぼあがったことがないです。
小玉:すごい沈着冷静なんですね。
渡部:大会でも焦る必要がないので。焦ってもいいことがないし。
小玉:短い時間のオブザベーションだけで、どう登ればいいのかを理解するのは、舞い上がっちゃったら絶対ダメですよね。
渡部:そうですね。でも、そこに関しては、冷静であると同時に自分が何が出来るか分かってないとダメなんです。分かっていれば、焦ることはないです。焦ってもしょうがない、焦る必要がない、やるべきことをやるだけ。「よし頑張ろう!」みたいな。
*オブザベーション (observation): 登るルートのホールドやスタンスを観察すること。 コンペ(競技)では6分間のオブザベーションができる。
小玉:沈着さに支えられた渡部選手の対応力はよく現れていると思います。大会の映像を見ているとしばしば足も手も止めにくい感じのところ、そろっとそろっとやりこなして、他の選手は落ちたところでも落ちないという場面を見ます。それは恐らく自然の岩の経験が多いことがプラスになってるのではありませんか?
渡部:岩はタイミングも重要です。自分が狙った時に岩のコンディションがいいとは限らない。ある意味、待つ忍耐力を要します。自分が焦っても岩はなんともならない。岩が起因している感覚はあると思います。
小玉:ユージさんなんかは、ライドって言いますよね。クライムじゃなくて、ライド、乗りこなす。
渡部:かっこいい。僕は言ったことがないなぁ。
小玉:だからライダーって名乗ってますね。
渡部:そうですね、ストーンライダーですよね。勉強になったな。
小玉:リードよりもボルダリングが好きなんですね?
渡部:そうですね、かなり好きです。
*ユージさん:平山ユージ。日本有数のプロクライマー。芸術的なクライミングスタイル(最も美しいクライミングスタイルと称される)で活躍するトップクライマーの一人である。