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渡部桂太 ―― 2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ―8―

VIVA ASOBIST, スポーツ

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コツコツと積み上げた先に勝利があるとは限らない
それでも一戦一戦、目の前を大事に戦う
それが自分スタイル

小玉:そうすると、話がちょっと飛躍しますけど、2020年のオリンピックは、コンバインドじゃないですか。
渡部:そうですね、3種目ですね。

小玉:種目別はない。となると、それに向かっての練習というと、リードもスピードもやらなきゃいけない。それは負担ではないですか?
渡部:負担ですね。もう、なぜしないといけないんだろうと自問自答です。自分が好きでやっている競技なので、強要されるような流れは嫌ですね。クライマーにしてみればあり得ないことです。僕はそこは納得できていないですね。納得することは、一生ないですけど。対外的にオリンピックに出ることがスゴイということはわかります。オリンピックに出たことが人生に影響を与えることがあるともわかっていますが、かといって僕にとってはオリンピックで人生が決まる訳でもない。自分の人生は自分で決めたい。僕より強い選手がいたら彼が出た方がよいと思います。

*コンバインド:2020年東京オリンピックでのクライミングはスピード(同じコースを登る時間を競う)、リード(長いルートをどれだけ高く登れるかを競う)、ボルダリング(高さ5m程の壁に設置された複数のルートをどれだけ登れるか、またどれだけ少ない回数で登れるかを競う)の3種目の総合点で優劣を決するコンバインド方式が採用される。

小玉:2020年の追加種目が5種。その全部の人数が選手以外のスタッフ関係者も含め何百人とか決まっていて、逆算していくと、クライミングの枠も決まった。
渡部:そうです。

小玉:だから、本当だったら体操みたいに個人、種目別、総合、団体総合とか、そういう仕分けがあってしかるべきだと思うんです。
渡部:クライミングがオリンピック種目になったことはチャンスではあると思うんです。このスポーツの知名度が上がると。だけれども、もともとのクライミングという文化的背景との歪みは広がってると思います。

小玉:スピードが種目別になったら、ボルダリングやリードに出てくる選手とはまったく選手層が違ってきます。今でも世界のトップクラスのスピードの選手って、ボルダリングもリードも競技には出てこない選手ですよね。
渡部:スピードクライミングは否定はしないです。見てても面白い。ただロッククライミングではないですね。

小玉:決まっているルートですものね。
渡部:そこはどうなんですかね?そこを話し始めると今日は終わらない。

小玉:案外、やってみると難しいと聞きます。
渡部:難しいですけど、それは難しいでしょって感じです。

小玉:どのホールドをどうとってというような手順を全部頭に入れて、目をつぶってもできるようになっていないとスピードは上がらない。
渡部:そうです。歩くのと一緒です。いちいち考えて歩いていないし。僕は考えて歩いていますけど。僕には向いてないですね。リードもそういう要素がある。順応していく。ルートに対して完登を目指していくと、自動化していくといいます。僕はそもそもそういう考え方が嫌いなんです。リードが好きじゃないのは、そこですよ。

小玉:デッドポイントみたいな考え方はダメですか?
渡部:あんまり面白くないですね。自分がやりたいならいいですけど。それが目的でクライミングはやらない。

Rock&Wall辻堂店にて

小玉:印象に残った大会は、やっぱり日経新聞の「いきなりじゃねーよ」ですか?
渡部:どうなんですかね。

小玉:2017年のBWC南京・中国戦で優勝されて八王子戦でも3位、その後も上位入賞が続いて、取材記者に「急に突出してきたのはなぜか?」と質問されて、「15年間の蓄積なんです」とお答えになった時に、内心では「いきなりじゃねーよ!」と思ったっと書いてありました。笑ってしまいました。
渡部:本当にそのままですね。「なに言ってんだ!」と。

小玉:そりゃそうですよね。
渡部:取材にくる人って調べてこない記者も多いんですよね。あういう場に来る人は。

小玉:そうなんですか?
渡部:全然、調べてこないんですよ。名前確認していいですかって。調べれば分かるでしょう。競技後にそんなの聞かないでよって。色んな人が取材にくる。もちろん色んな考え方もあるから、百歩譲ったとしても大会が終わった直後のインタビューなんだから最低限必要なことしか聞かないというのがマナーではないかと思ったし、相手を尊重するというスタイルが当たり前だと思っていたので、僕も必要じゃないコメントはしなかったんです。

小玉:まだ、ついていっていないメディアもあるんでしょうね。
渡部:スポーツとしてのクライミングはまだまだ尊重されていないんでしょうね。それが「取材してあげているんだよ」というムードを作るんです。これからスポーツとしての格が上がっていった時に、僕らは自惚れてしまわないようにしないといけません。こちらは大会に出ているプロとして、取材者はその道のプロとして相対したいものです。