渡部桂太 ―― 2020年東京オリンピック・スポーツクライミング応援シリーズ―8―
希望はもっと先、パリへ!
東京を試金石にして整えられたクライミング環境でこそ
自分を試してみたい!
小玉:多くのメディアは学習途中だと思います。用語からまず学ばないといけない。これからリアルタイムでのクライミング試合中継なども増えてくると思います。クライミングというものを多くの人に知ってもらって、クライミング人口そのものも広がっていくいいチャンスだと思うんです。ですから全く知らない人にもわかるような工夫や解説は必須だと思います。そういう意味でいえば2020を受けてのジムの乱立もいいのではと考えられます。
やはりジムはインとアウトの交流点だし、それからリードは70歳を越えてる人がたくさんいたりキッズもいたりして、異世代の交流の場だし、そういう場としてのジムが増えるということはクライミング文化を広く喧伝していくためには有効だと思いますね。
渡部:僕も競技者ではあるんですけど、地元でずっとクライミングをしてきましたし、今、こういう状況で、オリンピックに採用されたことでブームになっていたりする。社会の場で就職とかさまざまに影響ができたりもしている。そういう状況について違和感がある方もいれば、いいんじゃないって応援してくれる方もいらっしゃる。そんな賛否両論ひっくるめて、僕がこの人たちから学んだことを無駄にしないということを意識し続けようと思っています。現役中はなかなかできなくても、伝える側にもまわる時が来たら、どんどんいい形で拡散していこうと。僕は、変則的な遍歴で、岩も好きだし、コンペもというところで、それはむしろ恵まれているということなのかもしれないと感じます。異世代の交流は僕もすごく感じるし、そのお陰で僕も存在している。
小玉:私たちの年代だと、山からインドアの方にという人は多い。普通に最初は誰でも人間は歩けるでしょってことで山を始めても、だんだんと高い山へ難しい山へと移行していくと、森林限界を越えたら岩稜帯になるわけで高山の岩稜帯歩きはクライミングをかじっている人と、経験のない人の差が歴然。安全登山の基本はクライミングと言われるゆえんでしょうか。
渡部:わかっていれば、いたずらに岩にしがみつかず空間を空けますからね。
登山に必要だからクライミングの練習をする。必要なものに対する過程の中の練習は、時代を経ても変わらない。ただ、確かに多様化はしてきていますね。
小玉:基本的なクライミングに対する自己コンセプトがそういうふうにいらっしゃるから沈着なんですね。
渡部:なるほど、そうかもしれないです。
小玉:「くわっー!勝つ勝つ!!」というふうにならない。
渡部:やることやれば、成績がついてくる。それでダメならしょうがないでしょって感じです。
小玉:ある意味、自然体な感じです。
渡部:特殊といえば特殊かもしれないです。年代的にも、珍しい。
小玉:ワールドカップで印象に残った大会…
渡部:あんまり、これっていうのがないんです。ひとつひとつ全力でやってるし、手を抜いた覚えもない。結果は変わっているんですけど、あんまりどれってことがないです。ひとつといわれても絞れない感じがしますね。
小玉:優勝しても、何位であっても、自分としては同じというか、目の前にあるものに対して真摯に向き合う。いろんなものが合致して、優勝したということなんですかね。
渡部:そうですね。もちろん優勝した方が、やりたいことやれるようにもなるし、周りも喜んでくれる。だけど優勝できるのは一人なので、絶対優勝できるとは限らない。男子は特に拮抗しているので、高次元なレベルのところで戦っていますから、絶対王者になるのは至難の業です。だから自分のスタイルでしっかり練習して結果を出せる状態を常に作っておく、そこにつきるのかな。
小玉:先ほども話題にあがりましたが、2020年にクライミングが正式種目になったということを受けて、雨後の筍のようにジムがボンボンできてという現象についてどういう感想ですか?
渡部:たとえばボルダリングだと一人でできるので、スポーツとして敷居の低い入りやすいスポーツだと思います。その受け皿が増えるのはクライミング発展のためにはいいと思いますよ。その中でめいめいが自分のスタイルで周りを尊重しながらやっていけるでしょう。ある意味もったいないジム、そこまでの労力をかけてそのレベルかというようなジムも確かにありますから、つまり…登れるレベルとかではなくて、ジムとしての何を提供するかをおさえてないジムが増えたのは残念です。
増えることで互いの切磋琢磨が生まれれば、いい刺激になる。マンネリ化してくると、停滞してきてしまう。
小玉:ジムが増えてクライミングキッズも増えると、その中からワールドカップにいけるような選手が育つかもしれないという期待も持てます。11、12をチャレンジしている場面を目にすることも稀ではないのが最近ですから。
渡部:僕の同じ歳よりみんな強い。登れる能力は高い。みんなワールドカップで優勝できると思いますけどね。
小玉:そうやって、人口が増えていく中で、いわゆる、習い事というと、かつてはそろばんでピアノでといってたのが、その中のひとつにボルダリング、クライミングが入りつつある。そうすると自分はやらないのに、ビレーだけしに来ているというお母さんを見かけるようになった。
渡部:まだ、いい方じゃないですか?まったく来ない人の方が多いと思いますよ。送り迎えだけ。
小玉:そういうことに対して、親御さんとかお子さんをどう思われますか?
渡部:人は多種多様なわけで、となるとジムも幅広い層の人が来る場所なので、ピンキリな部分は仕方ないと思うんです。ただ重要なのは、棲み分けが必要かもしれません。今後のジムは。そこのバランスをとっていかないと同じ空間では難しい。都市部では多店舗展開していくと、中にストイックな店舗もあり、一方で人でごった返している店舗もあったりというケースも出てくると思いますが、地方はそうはいかないと思うんです。
小玉:キッズが将来ワールドカップ選手になるには、個人の能力差以外には、何が考えられますか?
渡部:僕はもう完全にメンタルだと思います。僕の場合、練習だとほとんどの選手に勝てないんです。本番だとその選手に勝っていたりするんです。自分の持っている能力を発揮できるかどうかは練習では計れない要素があります。その部分で差がつくんだと思います。ある一定のレベルにはすぐ上がると思います。
小玉:叱っている親御さんもいますが。
渡部:いいんじゃないですか?まあ、叱るのも色々ありますけど。クライミングをやってない親が技術面で口を出すのはノーセンスだと思います。僕の尊敬するクライマーがジムを経営されていて、今は、子供と一緒に親も教育しないといけないと言ってました。
小玉:どういうことですか?
渡部:家庭にいる時間がジムにいる時間よりも長い。学校にいる時も管理できないじゃないですか。だと、来た親をしっかり教育していけば、自分たちが提供したいものを家庭の中でもうまくトレーニングできる。僕も練習は24時間だと思っているので。一番良いのは親もクライミングをやってもらえれば。渡部:家庭にいる時間がジムにいる時間よりも長い。学校にいる時も管理できないじゃないですか。だと、来た親をしっかり教育していけば、自分たちが提供したいものを家庭の中でもうまくトレーニングできる。僕も練習は24時間だと思っているので。一番良いのは親もクライミングをやってもらえれば。
小玉:2020年のオリンピックそのものについては考え方をお聞きしましたが、特にご自身のお気持ちとなるとどうでしょう?
渡部:そうですね、僕はむしろその4年後のフランスは出たいなと思いますけど。
小玉:4年後のオリンピックは変わっていてほしいですよね。
渡部:おそらく単種目でという方向で動いていくので、年齢的に有利かどうかは分かりませんが、目標としてはいいかなと。自分が状況にそぐわないなら、状況が変わるのを待つ。待つのは得意。
小玉:3種目別々で、もちろんコンバインドもあってもいいんですけど、違った選手層で、速い人はめちゃくちゃ速い、というのが望ましいですよね。
渡部:そっちの方が楽しいですよね。それぞれのプロを見たいですね。
小玉:解説する人の責任もすごく大きくて、なぜリードで上の方でもじもじしてるのか、ちゃんと説明しないとわからない。
渡部:解説側もそうですし、演出する側もそうだと思います。今の日本の技術力だったり、今の時代の技術力をちゃんと使えば、伝えられなくはないと思います。
小玉:オブザベーションについてはリードの場合特に上の方は全然見えない。
選手の方たちは、「どこどこのメーカーだから、あの形状のホールドはパーミングだ」というふうなことがわかるんでしょ?
渡部:いや、想像でしかない。みんな現場対処しています。下見で100%いくことはないと思っています。現場対応能力がクライミングには必要になります。
小玉:そうですよね。ボルダーはまだ高さがそこまでではないですけれど、リードだと高いと何も見えないですよね、近づいていくと形状が想像できるようになるんですよね。
渡部:はい、距離感だったりカラビナの位置だったり、自分の体力面も見えてきます。後は、周りの雰囲気も勝敗を左右します。
小玉:スピードはオートビレーなんですね?
渡部:そうです。そういう意味ではスピードの方が純粋でいいかもしれません。ただフォーマットが変わらないので。ちょっと違います。
小玉:あれは全部オンサイトのルートだったらタイムが全然違いますよね。
渡部:ばらばらですね。ただ、見る側は面白くないですね。